気に入らないからと適当な理由を作り、今しがた差し出されたプレゼントを窓から投げ捨てた。
あっけなく地面へ放り出された箱は、落下した先できっと歪に拉げているだろう。
何が入っていたかは見るまでもない。
出来れば中味が全部ぐちゃぐちゃになって、潰れていてくれればいいのだけれど。
「なんて酷いことを・・・・・・」
私の背後からいたく驚愕めいた、中年のメイドの声が聞こえる。
私が振り返ると、やはりそこには目を剥いた彼のメイドが立っていた。そのメイドの他にも数人の使用人たちが、みな同じような表情になって固まっている。
「あれは母君様と妹君様、お二人がお嬢様の誕生日を祝うため、贈られたものですよ」
「それが、何?」
私は心底つまらなさげに呟いてやる。周囲の者たちが、まるで異様なものを目にしたかのように青ざめていく。こっちの様子のほうがまだ面白みがあるというものだ。
「・・・・・・貴方様は異常です。どうしてこんな所業ができるのですか?」
「そう思うなら早くあの落ちたゴミを回収しに行きなさい。それともお前はあの中味が何か知っているのかしら?」
異常と言うならどちらが異常か。
私の問い掛けに中年のメイドが肩を揺らした。
やはり、知っていたようだ。
だとしたら、迂闊に母様と妹からのプレゼントだなんて、みんなの前で言うべきじゃなかったわね。
「いくら私がすぐに投げ捨てたからって、動揺しすぎじゃなくって? お前のような無能なメイドしか雇えないなんて、お母様たちもお可哀想に」
私の考えが正しければ、あれは何らかの毒物だ。さすがに触れただけで侵されるような強力なものではないと思いたいが、毒を仕込んだのがもし食べ物だとしたら、庭園に舞い込んだ野鳥が無闇に食べかねない。
私の言葉に、中年のメイドはようやく己の過ちに気付いたようだ。血相を変えて立ち上がると、こちらに挨拶もなしに勢いよく部屋を出て行った。
私はひとつ溜息をこぼす。まったく暗殺されかけたというのに、私ってばまだまだ甘いわね。
私は部屋に留まる使用人たちを一瞥する。
彼らからの奇異な視線を受け流し、私はまるで何事もなかったかのように、ニコリと微笑んでやる。
「失礼なメイドの対応をして疲れたわ。少し休みたいからみんな出て行ってくれる?」
慌てた使用人たちが次々と部屋を退出していく。彼らが今後私をどう見るのか、どう評価するのか、そんなことはどうでもいい。
せいぜい意地の悪いワガママ令嬢とでも思っていればいい。どうせ面と向かって指摘してくるような度胸がある者なんていないだろうし。
私は開け放たれていた窓を閉める。ようやく終わったこの茶番劇に幕を下ろすかのように、傍らのカーテンを静かに引いた。
【カーテン】
10/12/2024, 9:32:28 AM