何を持って「愛」というモノを定義する?
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男は少女の髪を梳く。彼女はそれを拒むことなく、むしろ受け入れている。
苦しげに漏れ出す息、背中から伝わる熱、髪を梳く指。
男の全てが温かくて、愛おしくて、自分から求めていた。
「くる、し」
「……すまない」
「ん、いいよ」
壊れ物を扱うようにしていたが、いつの間にか思いの丈が溢れていた。
「嫌じゃないのか、こんな見知らぬ男に抱きつかれて」
遺族の控室で眠り落ちていた彼女を、遠い親戚と偽って家に運んだ。
何故こんなことをしたのかと男自身もわからぬまま、この状況に至った。
「控室で起こさないでくれたし、式ですべきことも教えてくれたから」
そう話す少女に、男は足を絡めた。気付いた彼女の顔が緩む。
「おじさんのこと、もっと知りたいの」
色恋を知らぬ葬儀屋に、天涯孤独の身となった少女。
彼らは密やかに愛を紡ぐ。
誰にも取られたくなくて、このまま二人で溶けてしまいたいから。
『孤を交える』
「愛情」
11/27/2023, 3:17:59 PM