夜の駅は静かだ。それも田舎の駅なら尚更。
都会の喧騒に疲れた彼が私を連れてこの町へ越してきた時のことをふと思い出した。「ここなら君と良い結婚生活を送れる気がするよ。」と、彼は頬を染めながらはにかんでいた。もうあれから何ヶ月経ったのだろうか。
「あと5分か…」
私はスマホの画面に映し出された時刻と電車の時刻表を見比べる。まだ電車は来ない。寂れた田舎駅に1人佇む私。こんな姿を見て彼はどう思うだろうか。きっと怒るだろうか。もしかしたら悲しむかもしれない。
なにせ“束縛だけでは飽き足らず監禁までして繋ぎ止めておきたかった女”が逃げたのだ。
彼は今頃必死に私を探しているだろう。私をまたあの監獄へと繋ぎ止めるために。
もう、限界だ。彼以外の人間に会わせてもらえず、家事もさせてもらえずただ彼を待つだけの日々はもう限界。
遠くから電車がこちらへと走ってくるのが見える。もうすぐ私は自由になる。あの男から逃げて、そしたら…。
突如ピロンという電子音と共にスマホの画面が光る。どうやらLINEから通知が届いたらしい。
「誰からだろ…お母さんからかな」
監禁されている間、私は両親にさえ連絡が取れていなかった。きっと私のことを心配してLINEを送り続けているのだろう。私は迷いなくLINEを開いて既読をつける。
そこには、両親ではなくあの男から1件。たった1件だけ、メッセージが送られていた。
「みつけた」
7/11/2023, 2:31:55 PM