「言葉じゃ、案外心って伝わってくれないものだね。」
よく君が寂しそうに言っていた。
真っ直ぐな物言いで、曲がったことが許せない。
好き嫌いもはっきりしている君は、
誤解を招きやすい子だった。
君みたいに、人から言われた言葉を
そのまま素直に受け取れる子は少ないんだ。
言葉の裏に隠されたものはないか探ってしまう。
人間っていうのは君が思うよりずっと、
臆病で、繊細なんだよ。
そうやって偉そうに諭していた僕が、
君にどんな言葉を送れると言うんだ。
最後の日、君はいつものように笑っていた。
飾らない感謝の言葉を淡々と言い放ち、
別れの言葉を軽々しく吐き捨てた。
やっぱり君は不器用だね。
そんな君にかけてやれる言葉が見つからない僕も、
案外似た者同士なんだろうな。
言葉で想いを正確に伝えることは出来ない。
言葉とは、言う人にも、聞く人にも、
その背景や口調にも意味が左右されてしまう。
制御なんて出来たものでは無い、不安定なもの。
自分が発した言葉全てに気持ちが込もっていても、
他人に伝わる想いは何千倍にも希釈したほんの数滴。
だからと言って、何千倍にも濃くした気持ちなんて、
到底言葉にはならない。そして正しくもない。
そんなもので自分の想いを相手に伝えるなんて、
無謀にも程がある。
それなのに伝わっていると思い込むなんて、
烏滸がましいにも程がある。
ましてや言葉に不信感を抱いている君にとっては、
別れ際に放つ言葉なんて無意味なものだろう。
僕たちに必要なのは、君に必要なのは。
僕は無言で君を力強く抱き締めた。
君は無言で僕の背中に手を回した。
きっとこれでいい。
僕たちに言葉なんて要らなかった。
感謝も謝罪も、今までを振り返ることも。
ただ、この温もりだけでよかったんだ。
9/28/2024, 6:33:08 PM