にえ

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お題『最初から決まってた』

 日々成長していくごとに、前の主様の面影に似ていく今の主様が怖い。
 前の主様に勝手に恋慕の情を募らせていた俺は、今の主様にも同じような想いを抱くのではないかと恐れている。それは前の主様にも、今の主様にも、失礼にあたると思う。
 それに、また恋をするのが怖い。一方的に恋をして、俺を残してまた先に逝かれるのも怖くてたまらない。
 俺は、とても身勝手で、感情的な人間だ。328年以上生きてきて、何も学んではいないらしい。

「ねぇ、フェネス」
 13歳になられた主様は無邪気な笑顔を俺に向けてくる。
「ハウレスが書庫で使う脚立を新しく作り直してくれるって約束してくれたの」
 ハウレス、と聞いて腹の奥からドス黒い感情が湧き起こってきた。前の主様ともハウレスはお似合いだったじゃないか。きっと今の主様とも、ハウレスなら——
「フェネス……フェネス、どうしたの?」
 主様のお声で我に返った。
「お腹痛いの? 大丈夫?」
 おろおろと俺を気遣ってくださる主様は何と優しくお育ちになられたのだろうか。
「いえ、俺でしたら大丈夫です。ありがとうございます、俺なんかにも優しくしてくださって」
 すると、主様はちょいちょいと手招きをする。俺にしゃがめとおっしゃっているのだ。言われるがままに片膝をついて視線の高さを合わせれば、手で覆った口元を耳に近づてけてきた。何の内緒話だろう。
 耳を傾ければ、頬に柔らかい感触。
「俺『なんか』じゃないでしょ? それに、こーゆーことするのはあなたにだけだから」
 なーんてね! とカラカラ笑う主様に、俺は顔を赤らめるしかなかった。

 もし今の主様へのこの気持ちが恋であるならば、それは最初から決まっていたことなのかもしれない。置いて逝かれるなら見送るだけだし、ハウレスや他の執事たちにも渡すつもりもない。
 なぁんて、執事兼親代わりとして抱く感情としては、やはりまずいよなぁ……うーん。
「お腹じゃなくて頭が痛かったの? 大丈夫?」
 頭を抱えている俺を気遣ってくださる主様は、やはり優しい。

8/8/2023, 4:07:11 AM