千明@低浮上

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「開けてくれませんか」

3回目のインターホンを無視して暫く、ドアの向こうからトントンと控えめにノックする音の後に、低くて耳触りのいい声が聞こえた。

「居るのでしょう?」

トントントン。先程より大きく戸をノックしている。

「先輩、ドアを開けなさい」

“先輩”と呼んでおきながら“開けなさい”と命令するその矛盾にドキリと心が跳ねて居留守の抵抗虚しくドアを開けた。彼は数センチ開いたドアの隙間にスッと体を滑らせて玄関に入ってきた。

「何故直ぐにドアを開けてくれないんですか」

目の前に立つこの男は180センチを超える長身で150センチの私が上がり框に立っていてもまだ首を後ろに倒して見上げなければならない。

「コレが居留守を使った理由ですか」

彼は私の頬に手を添えた。すっぴんの顔を見られるのは初めてだった。眉毛も描いてないし、そばかすだって隠してない。付き合って日も浅いのにまさか急に家に訪ねてくるなんて...

「恋人が風邪をひいて仕事を休んでいるのだから介抱したいと思うのは当たり前のことでしょう」

真っ直ぐに見下ろしてくる双眸は私の心をいとも簡単に読み取ってしまう。

「こんな事で居留守を使われては堪りませんね。普段の先輩もとても綺麗でいつも見惚れてしまいますが、化粧をしていない先輩は少し幼くなって、その姿は自分しか知らないのだと思うと高揚感が高まります。恥じらうその姿も余りにも可愛らしい。体が万全だったのなら今直ぐにでも抱き潰してしまう所でした」

明け透けな物言いにカッと頬に熱が集まる。

「あれ?顔が赤いですね。熱が上がってしまいましたか?」

態とらしく口角を上げてトボける彼に沸々と怒りが沸いてきた。急に来ただけではなく、私の反応を見て楽しんでる...

「今度から」
「はい?」
「今度から絶対連絡してから来て...」
「何故ですか」
「二度とスッピン見せない」
「すみません。もう揶揄わないからそんな事言わないでください。...あぁ、顔を隠さないで」
「.....」
「顔を見せてください」
「.....」
「.....先輩、コッチを向きなさい」
「ねえ、私があなたの時々敬語が外れるギャップに弱いっていつから知ってたの...?」
「....うわ、スッピン上目遣い本当堪らないですね...先輩早く風邪治してください。抱きたい」
「........もう帰ってよ」



#突然の君の訪問

8/28/2022, 1:18:01 PM