YesName

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【もっと知りたい】

 私は誰よりも君のことを知ってる。

 今日の夕方、帰ってすぐに配信を始めたこと。指先に血がまん丸く乗ったサムネを使っていたこと。その写真は約四ヶ月前に撮ったものであること。

 部屋にあったカッターナイフの刃をたった一度も折っていないこと。それで胸に傷を付けたこと。わざと刃先に血を付けたまま、目につく場所に置いていたこと。その血は私が見つけた日から過去二日以内のものであること。

 父親から性的虐待を受けていたこと。母親と一緒に父親から逃げて、今は母親から暴力を振るわれるだけになったこと。これら全部、明るく笑いながら語らないと心を保てないこと。

 兄の話は全て嘘であること。彼氏の話は全て嘘であること。私にしてくる言い寄られたって話は殆ど嘘であること。あの子が苦手だ、あの子と嫌なことがあった、なんて話は半分嘘であること。

 「大丈夫!」なんて笑顔は、嘘であること。君は怖い時、辛い時、苦しい時ほど笑うこと。いつも独りで泣くこと。
 私はなんだって知ってる。誰よりも知ってる。
 だから私が君を酷く傷付けてしまったことだって、よーーーく、知ってるよ。
 
 それなのに、君は私の名前を呼んでくれた。私はあんな酷いことをして、君を傷付けてしまったのに。
 君は怖くなかったの?私は、怖くてずっと出来なかった。
 「なんで、なんでなんだよー」って、君はいつも通り明るい声のまま繰り返した。私だって聞きたかった。
 私は君のこと、知ってるはずなのに何も分からなかった。

 でも君は、「めっちゃ仲良かったー。あ、わたしが仲良いと思ってただけかもしれないけど!」って、言った。
 だから私は、「いや、仲良かった。ほんとうに」とだけ言って、君の全てを知りたいだとかは全部どうでもよくなった。

 君が言った「またね」には、何も言わず手を振るだけだったけれど。もしも君が次をくれるのなら。

3/13/2024, 12:27:59 PM