たやは

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キャンドル

地下室へ向かう階段をキャンドルを片手に下りていくと大きな部屋に着く。その部屋には天井に届くほどの高さの本棚がいくつも並び、本棚にはABC順に整頓された本がびっしり詰まっている。

ここは魔法法務局の局長であるおじい様の管理する公営の魔法本の図書館だ。公営と言っても誰でも入れる訳ではなく、おじい様の許可が必要となる。許可を貰い図書館に来たのは、来週から始まる魔法学校の卒業試験の資料集めだ。

試験は3つ。
1つ目は魔法の箒での100m走。箒だから走るのではなく空を飛ぶ時間を競う。

2つ目は魔法で何かに変化すること。小さい頃からコウモリに化けるのは得意だ。

3つ目は幸福を呼ぶ魔法薬の作成。この図書館のどこかに幸福を呼ぶ魔法薬の作り方が乗った教本があるはずだ。本が見つかっても材料を集め、集めた材料を大釜で醸造しなければならなず、時間がかかる。
試験日までに魔法薬を提出できれば合格となるが、試験日まで時間がない。

とにかく教本を探さないと。

「えー。幸福を呼ぶ、bring happinessだから、Bのところで…」

ああそういえば。
魔法法務局の次長さんて女の魔法使いで、人間に恋して自分の寿命を500年位縮める魔法薬を作ったと聞いた。たしか、その魔法使いもこの図書館で魔法薬の醸造の仕方を見つけたらしい。寿命を縮めるなんて私には無理かな。恋もしたことないし、良く分からないや。

思考が逸れた。
恋ではなく幸福を呼ぶ薬の教本を探さないと。どこだ。どこだ。

あ!あった。
教本を手に取り魔法薬のレシピを確認。
脚長カエル       2匹
月見草         17本
妖精の鱗粉       10g
キャンドルライトのロウ 5滴

レシピを頭に入れ、魔法の箒に飛び乗り、魔法界、人間界、妖怪の世界、妖精の世界を最高速度で飛ぶ。5日かけてやっと全ての材料が手に入った。試験日まであと1日。この1日は大釜で醸造だ。

グツグツ。

醸造が進むが、キャンドルのロウを5滴垂らすタイミングが分からない。あの教本は余りにも古すぎて字が読めないところが何カ所かあった。タイミングを間違えれば魔法薬は完成しない。

どうしょう。もう時間もないし私の魔法使いとしても勘に頼るしかない。きっとこれも試験の1つだ。

グツグツ。

大釜の底がキラッと光ったのが見えた。
今だ!
5滴のロウを垂らすと底だけだった光が、大釜全体に広がり、大きなしゃもじで大釜の中身をかき混ぜていた私をも包んでいた。光がおさまると大釜の中に金色の液体がほんの少しだけ残った。

やっと完成だ。

翌日、私は試験に合格し魔法学校を卒業した。これからは、魔法法務局で見習い魔法使いとして頑張っていこうと思う。

11/19/2024, 1:02:23 PM