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ずっと隣で ( 死ネタ注意 )

『お母さん。』
今日も私は、返事の無い母に声をかける。
『お母さん、ほら見て。桜が綺麗だよ。窓のそばの桜の木。』
例年より早く、それであって美しく立派に咲き誇る桜の花。
お母さんは植物を育てることが好きで、庭のある一軒家に引っ越したのもそれが理由だ。
特に桜は、毎年のように私や父を連れて、少し離れた大きな公園までお花見に行くくらい好きだった。
でも、もう、一緒にお花見、できないな……
静まり返ったこの部屋に、コンコンコン、とノックの音が響く。
「……母さん、…久しぶりに、お花見に行かないか。ハナも一緒に、3人で。」
「…………」
「……今日は、ハナの20歳の誕生日だろう? ケーキも買って、いつもの場所でお祝いしよう。」
「…………ごめんなさい。……まだ、怖いの、あの場所が。」
「……母さんがいつまでも暗い顔してたら、ハナも悲しむぞ?」
「怖くたっていい、少し近づいてみるだけでもいい。」
「……5年、経ったんだ。……少しずつでも、前に進まないか、?」
「……そうね、……少し、頑張ってみるわ。」
「ありがとう…。」
そう言って抱き合った両親の目には涙が浮かんでいた。
私もそこに混じりたいけれど、残念ながら私はもういないから。
ねえ、お母さん。
私を守れなかったって、自分を責めないで。
確かに結果はそうかも知れないけど、自分の命を顧みずに守ろうとしてくれたよね。
ありがとう、大好きだよ。
母がやっと前を向けそうで安心した頃、私は春の昼間に溶けていった。

3/14/2026, 3:14:46 AM