望月

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「こんな時期に、風邪をひくなんて馬鹿だろ」
と言いつつ呆れた様子で僕の隣に腰かける君も、似たようなものだ。
「そう思うんなら、早く僕から離れなよ。暑苦しいし、風邪うつしちゃうよ?」
「それは遊ぶ約束してる日に夏風邪をひく方が悪い」
ごもっとも。僕に反論の材料なんてないが、それでもなんとか抵抗を試みる。
「しょうがないと思わない? 昨日帰りに雨に濡れたんだよ、傘忘れて」
「しょうがないと思わない。一昨日の晩、傘忘れるなってあれほど言ったのに……」
返す言葉もない。何度も、それこそ登校する直前まで注意喚起してくれた君には感謝しなきゃだ。
「……ごめんって、遊ぶ約束してたのに。傘も、忘れた僕が悪いよ、うん」
「わかればよろしい」
この会話を聞いたら、すぐわかるだろう。
僕と彼との関係性はいつだって、彼が上なのだ。
一つ年上の幼馴染は、得意げに笑う。
「なー、部屋の温度丁度だろ? それに、冷えピタも貼ってやった俺に感謝しろ!」
「はいはい、してるから。ほんとにありがとう」
「おう! どういたしまして!」
自分でほぼ言わせたくせに、彼は嬉しそうだった。
——無邪気に笑う君を見て心臓がうるさくなったのは、きっと、風邪のせいだ。
そうでなきゃ、顔が赤い理由なんてないもの。


——気が付けば、日が傾いていた。
いつの間にか寝てしまったのだろう、僕はベッドから身を起こそうとした。カーテンの隙間から差し込む夕日を隠す為だ。
だが、それを阻む手と温もりがあった。
「……あのさぁ、普通に考えて風邪ひいてる人の傍で寝たらだめに決まってるでしょ」
聞いていないだろう、彼に零した言葉は呆れしかない。
看病している途中で寝てしまった、というのはまだわかるからいい。けれど、その病人を後ろから抱きしめる形で爆睡するというのは、中々斬新だろう。
「……起きて。おーい、起きてってばー」
何度体を動かしても起きないどころか、更に僕を離すまいと腕に力を込められた。寝てるのに。
僕に残された選択肢は……諦めて、二度寝をする他なかった。
決して、彼がそこにいて安心するからとか、もっと続けてほしいからとかじゃない。本当に違うから。
ただ、そう。
幼い頃を思い出しただけだ。

12/16/2023, 1:24:37 PM