目の前の少年は、覚悟を決めた顔で私にこう言った。
「付き合ってください。」
そして、手を差し出した。
しかし、私がどう答えようか考える間もなく、少年の手は下げさせられた。
「だめだ。」
私の夫、シャト君によって。
「なんで⁈」
「おれのだから。」
彼は少年相手でも私のこととなれば、容赦ない。
「や…やっぱりそうなの、シェラ様…?」
少年は潤んだ瞳で私を見つめた。少年は、全てを知っていたはずなのだ、私が既婚者であることも。
「僕には、シェラ様しか、いないのに!」
周りの目を引きたくて、少し悪いことばかりやって問題を起こしてきた少年を正すように頼まれ、私は少年の相手になっていた。そんな少年が、私にこう言ってくるのは仕方ないだろう。
「…ごめんね。」
私がそう言えば、少年の顔は真っ青になった。
「シェラ様の、ばか‼︎」
少年はそう叫んで、どこかに駆けて行った。
「…行っちゃったよ、アイシェル。」
「そうだね。」
「追わないの?」
「シャト君のせいだよ。」
彼はやれやれといった感じで、少年を追って行った。その背中を見送りながら、私は魔法を放つ。『やさしい雨を降らせる魔法』だ。少年とシャト君は、この雨をどう感じるだろうか。
5/25/2025, 12:43:43 PM