絵の具で豪快に染めたみたいな青と、丁寧に積み重ねたような白。空はいかにも夏という感じの見事な景色。
これ以上ないくらいの爽やかさを背景に、心は裏腹。重たい足を引きずるようにやっと進む。頬を伝ってぬるい水が、アスファルトに落ちた。
夏は嫌いだ。
汗をかくのも嫌だし、日差しが痛いのも嫌だ。
明るさが何でも鮮明に映し出してしまうところも。
小学生の頃、意味もなく家を飛び出して、道もわからないままただ歩いた夏の日。汗ばかりかくからやたらと喉がかわいて、自販機で買った水の残りは荷物になって重かった。
何というわけじゃない。でも何かを探したかった。見つけたかった。なくしてしまった大切なものの代わりに、何で胸を埋めたらいいのか、あの頃はわからなかった。
結局何も得られないまま、汗だくになって帰った。残ったのは飲み残した水と、少しだけ軽くなったお財布。ぐしゃぐしゃの自分。
この気温と日差しとが引き金になって、どうしても思い出してしまうから、夏はやっぱり嫌いだ。
日傘も差さずに歩く。
あの道とは違うけど。
たぶんあの夏の、あの道とあの空は、一生忘れない。忘れられない。
入道雲 22.6.29
6/29/2022, 1:00:23 PM