『深海スタンプ』
リリーは旅をしていた。白く美しい髪がどこまでも続く静かな世界になびいていた。リリーはいつも一人だった。他に人など、ここには居ないのだ。
当てなどなかった。どこに向かっているのかも、どこへ行きたいのかも気にとめず、この世界はリリーを導いていた。もうすぐ『終点』その事だけは分かっていた。
突然、リリーの体が大きく揺れた。髪がよりいっそうなびき、皮膚が引っ張られ、強い光が辺りを覆う。
その場所は、見たことがないような鮮やかな世界だった。リリーの髪が目立たないほどに、そこには色が溢れていた。相変わらず人などいなかった。ただそこには手紙があった。
得体の知れないものを掴んだのは、珍しかったからだ。白い手紙には深い海のスタンプが押されていた。
「リリー。長旅ご苦労さま。何も無い世界を泳ぐのは、寂しいものだったのか、楽しいものだったのか。今の僕にはさっぱり分からないけれど、君がこれを読んでくれていることがとても嬉しい。もうすぐ逢えるよ。そうしたら、君を思い切り抱きしめて、もう二度と、その手を離したりしないんだ。」
不思議と必死な字だと思った。その文字を指で丁寧になぞって思いを馳せていると、リリーの体を暖かい白い光が包み込み、リリーはこの世界から消えたのだった。
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テーマ『終点』
8/11/2024, 6:48:54 AM