好きな本
読書よりも、書く方が好きな人生を歩んでいる。
自宅に棚はあっても、本は収納されていない。棚にたくさんの背が並んでいても、そこにプリントされるタイトルはどれも、ボードゲームのものだ。いや、それだけではなかった。映画のタイトルも並んでいる。
趣味の執筆。頭に浮かぶ、自分だけの愉悦をしたためるために、ローテーブルにはパソコンが一台。本を見つけられるのは、そんなパソコンの周辺に限られる。読書のためというよりも、資料の名目。けれども、まだ四半世紀をわずかに過ぎたばかりの人生で見つけた、自分だけのお気に入りは、確かにそこにあった。
マンガはあまり好きじゃない。でも、絵が上手くなりたいと考えたことは何度もある。勉強はかなり苦手だ。でも、頭を良くしたいと遅れを取り戻そうとしたことは数多い。ゴシップには興味がわかない。でも、記者の仕事に就いてみようかと考えあぐねたことはある。
そんな自分の手元には、やはり、マンガも、参考書も、雑誌も、存在しない。あるのは主に、小説本。ジャンルはミステリに傾倒している。
世の中には数えきれないほどの本がある。
廃れていったって、今なお、消えることはない。
下手な鉄砲も数を撃てば当たるように、読み尽くせないほど存在する本に、あてどなく手を出していけば、誰だって、好きな本に巡り会えることだろう。特に自分などは、好きなジャンルが決まっている分、どれだけ読む数が少なくても、当たりを得ることは多くある。
ミニマリストほどではないけれど、所持品を増やすのはあまり好きな方ではない。本に対しても、その気持ちは同じだ。一方で、収集癖な所もあって、お気に入りだけは、いつまでも、手元に残したくなる性分でもある。ローテーブルに置かれた、一台のパソコン。周辺に並ぶ本の群れのほとんどは、実は、そんなお気に入りたちだったりする。
それでも。そんな中から、たった一冊の好きな本を選べと言われたら、僕はなにを取るだろう。考える必要もない。その本に初めて触れた瞬間から、これだけが、この先で出会うどんな本よりも、特別で、大好きであると分かっていたから。
僕は趣味で物語を紡ぐ。
作家になろうと思ったことは、恥ずかしながら、やっぱりあるのだけれど、なれると思ったことは一度としてない。だから僕は、夢をお金で買った。
必死に紡いで、自分のためだけに、自分の好きなものを多く込めた、そんな物語。依頼をかけた印刷所から送られてきた、たった一冊の夢。喜びと虚しさが同居する気持ちの奥底でも、手にした一冊は、なによりも特別だ。
6/15/2023, 12:25:33 PM