或る本の巣、模写。

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担任のめぐみ先生はとても器用な人だから
教室の掲示物をたくさん作ってくれる。
朝、教室に入って[6月のお誕生日]を確認する。


よし。今日で間違いない。


4年生の初めに転入してきた
ショーンくんは今日が誕生日。
5時間目の生活科の時間では
6月生まれのみんなの
お誕生日会をすることになっている。

だけど私はショーンくんに
お誕生日プレゼントをあげたい。

今月のおこずかいは使っちゃったから
お手紙しか書けなかったけど
外国ではメッセージカードを
プレゼントすることが普通って
[マツコの知らない世界]で
言っていたから頑張って作ってみた。


あとは、渡すだけ。


図工の時間に
マーブリングをした。
水に一滴、一滴
色インクを垂らして画用紙で掬い取る。
私はピンクと紫とシルバーを使った。
ショーンくんはとても綺麗な色だね!と
褒めてくれた。
この画用紙でメッセージカードを
作ってあげられたらよかったな。

給食のデザートに
冷凍のパイナップルが出た。
舌がピリピリするから嫌いだと
ショーンくんは言っていた。
私もそう。
味は好きだけど
舌がピリピリする。
一緒だ、うれしい。

午後掃除はいつもよりみんなが
協力し合って早く終わらせた。

黒板に薄紙で作った花飾りと
お誕生日おめでとう!の文字を書く。
飯田くんとショーンくんと
ゆかちゃんが今日の主役。

みんなー!主役さんたち入場するよー!

めぐみ先生の元気な声に
教室のみんなは「はーい!」と
もっと元気に返事をする。

廊下にいる主役さんたちは
めぐみ先生の作った
王子様とお姫様の冠をつけて
大きな拍手の中、少し恥ずかしそうに
でも、嬉そうに教室に入ってくる。

教壇の上に飯田くんが上がった。
続いてショーンくんも。
そして、ゆかちゃんが教壇に上がろうとした時
「ゆかちゃん!おめでとおお!!」
という大きな声がした。
その声の方向へよそ見をしたゆかちゃんが
教壇を踏み外して転びそうになった。

すかさず手を伸ばしたショーンくんが
めぐみ先生の作った王冠のせいで
本当の王子様みたいに見えた。

女の子たちはきゃーっ叫び、
男の子たちはおおおー!といった。
飯田くんは何が起きたかわからなかったみたいで
決めポーズをしていた。
ざわつきを残しながらも
男の子たちはみんなイイダ!イイダ!と
いつもみたいに騒ぎ始めた。

私はちくりと胸が痛かった。
ショーンくんと同じ6月生まれになりたかった。
一緒に冠を被りたかった。

楽しい気持ちになりきれないまま
お誕生日会は進む。
歌を歌って
ハンカチ落としをして
クイズ大会をして
そのまま帰りの会をして
ランドセルを背負った。

昇降口で靴に履き替えて
学校を出れば
今日が終わってしまう。
せめてショーンくんにおめでとうと
言いたかった。

とぼとぼと正門に向かって
立ち止まり、また歩き出し
振り返り、歩き出し。
とぼとぼ、とぼとぼ。


どうしたの?
だるまさんころんだ?


ちっちがうよ!


ふふ、変なの。


突然ショーンくんが現れて
あまりにびっくりしてしまった。


日本のお誕生日はもっと
静かなんだと思ってた。


そうなんだ。
楽しかった?


もちろん!
とっても素敵だった。


そっか、よかった。


うん、今度はひまちゃんの番だね!


え?


ひまちゃん、7月生まれでしょ?


そう、そうだよ!


お母さんが、ひまわりのレターセットを買ってきたんだ。
それを見た時に、ひまちゃんのお誕生日はメッセージを書こうと思ったんだ!


楽しみにしててね!と
ショーンくんはかけだしてしまった。
渡せなかったメッセージカードと
私は取り残されてしまった。
さっきまでの暗い気持ちは
ショーンくんが晴らしてくれた。


そうだ!
ショーンくんが綺麗な色と言ってくれた
あの画用紙でまたメッセージを書こう。
ちゃんとおめでとうと、ありがとうを
伝えなきゃ。
今度こそ。

6/24/2024, 2:16:21 PM