Shina#47

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お題 : 未来の記憶

「私さ、未来が見えるんだよね」

「……は?」

昔、俺がまだ学生で青年だった頃。
突然隣の女の子が、独り言のようにそう言ったのを凄く覚えている。

そう、それはまさに独り言。本当に独り言。それでも俺は鮮明に聞こえた。

「あ、聞こえたの?つまり、私には未来の記憶があるの」
「……み、未来の記憶?」
「そう。未来の記憶」

そんな笑顔でピースされても困る。

酷くそう思った。元々心霊とかそういうことを信じない身体な人間の俺。そんな人間が言葉だけで「未来が見える」なんて信じることはなく。

「じゃあ、証明してよ」

ふとそう言葉が出ていたのは、無意識だった。

「うん、いいよ」

そんな言葉に軽く返されたのは、もっと驚いた。

「たとえば………今から数秒後にチャイムが鳴って、先生が忘れ物を取りに帰る」

キーンコーンカーンコーン。
そう言った途端、すぐにチャイムが鳴った。
それと同じぐらいのタイミングで、先生が扉を開けて入ってくる。

「よし、それじゃあ日直号令……あ、ごめんみんな。ちょっと忘れ物しちゃったから、ちょっと待っててくれ」

そうすると先生が頭を掻いて、また物音を立てて教室を去っていく。
その先生はいつも忘れ物などすることはなく、まさに「完璧人間」という言葉がお似合いな人間だ。

「………マジじゃん」
「ね?言ったでしょ?はい、証明完了」

澄まし顔でそう言ってみせたアイツに、何故か悔しくなった。まぁ、その頃は思春期だったのもあるが。


それからソイツに俺は付き纏うことになった。


「今日はどんなことがあるの?」

「ね、これからどんなこと起こるの?」

「なにそれ。もっと教えて」


幽霊は信じない専門だった俺が、こんなに信憑性がないことに信じるのは初めてだった。
でも、コイツの話は惹き込まれるほどに面白くて。

徐々に未来の出来事を毎日聞くのが、俺の日課になっていた。


そんな毎日が続いた日、ある時の出来事。


「おはよ!ね、今日はどんな未来が見えるの?」

いつも通り、隣の席に座るあの子に話しかけた。
だがその日だけは、いつもの余裕な表情はなく。

「…………見えない」
「え?」
「…………未来が……見えない」
「……は?」

目を大きく見開いて、秋で寒くなってきたというのに汗が止まることなく流れていた。
ソイツにとって、「未来が見えなくなる」ことは、毎日の崩壊と変わらないのだろう。

それぐらい、ソイツは本気で焦っていたのだ。

「でも、ひとつだけ……見えるの」
「ひとつだけ……?」
「大人になった男の人と私が……何処かで合ってるの」
「………?」
「ご、ごめん…今日、体調悪い………先生に言って、早退することにする」
「わ、分かった…お大事に」


その日から、ソイツは消えた。


次の日も、その次の日も。1週間たっても、1ヶ月たってもこなかった。

1年たっても、卒業しても、大学生になっても、大人になっても。

連絡は来ない。そもそも、来るはずがなかった。
まだあの謎の出来事を忘れられずに大人になり、平凡な毎日を送っている。
成功も、失敗も、大きな過ちだって犯した。それでも、人間らしく生きてきた。

もちろん今日も仕事を終え、毎日通る道を引き返していた。

「……あ!あの、すいません!」

突然、声を掛けられた。
後ろの方から聞こえたため、振り返る。
そこには、黒髪ロングの可愛らしい女の子。

「はい、どうしましたか?」

落し物でもしたか?と考えながら、とりあえずの返事。

「私、過去の記憶があるんです」

「…え?」

「貴方と、何処かで会ったことがある気がして…」

「…………あ」

ふと頭に浮かんだのは、あの青年だった頃のアイツ。
「未来の記憶がある」と抜かして、毎日話を聞いてた思い出。あぁ、あの頃に戻りたい。

「もしかして、あの中学の頃の…」

「そう!多分それです…!あともうひとつ……」

「はい?」


「私、あの時の帰り道で貴方に殺された記憶があるんです。一体、どういうお気持ちで?」

2/12/2025, 12:07:14 PM