私、永遠の後輩こと高葉井が住む都内某所に、3センチ4センチくらいだけど雪が積もった。
呟きックスはたちどころに雪ゆきユキ。
良い意味でも悪い意味でも沸き立つ都民と雪国マウントの投稿とで、一気にお祭り状態。
『東京には東京の怖さがある』
雪国出身の私の先輩、藤森先輩はいつも言う。
『たかが数センチ。そうだろう。
東京ではその数センチ積もった積雪道路を
ノーマルタイヤで高速走行する連中が
たくさん、何台も、大量に、いるんだ』
私は雪国の出身だけれど、
その一点は、間違いなく故郷に降る雪より、怖い。
SNSをやらない先輩は、どこにも書けない自分の気持ちを東京出身の私に言った。
東京には東京の、北海道には北海道の、青森には青森秋田には秋田、新潟には新潟長野には長野、
群馬、鳥取、福井、富山、等々。
それぞれに、それぞれの冬がある。先輩は言っt
「高葉井さん!高葉井さん手を離さないでください
どこまで塗って良いのか分かr」
「ツー様大丈夫ですそのままガーで大丈夫でs」
「ガーとは何ですガーとは
本当に大丈夫なのですか高葉井s」
「自信持ってくださいツー様」
「くぅぅぅぅぅぅ」
「ツバメさん高葉井そろそろ休まないか」
「子狐が冷蔵庫物色してるぞ藤森」
「おべんきょの後はおやつ。おやつ」
「高葉井さん!前と後ろを縫い込んでしまったときは!どうすれば良いのですか!」
先輩と違ってSNSをやってる私でも、
どこにも書けない、かもしれないハナシ。
雪に慣れてる先輩の部屋にお邪魔したところ、
私が来る前から部屋には先客が居て、ご近所の稲荷神社の子狐ちゃんと、私の推しカプ2人セットが
先輩と一緒に何か真剣なハナシをしてたようで。
『高葉井さん!丁度良かった』
推しの左側、ツー様もといツバメさんが言った。
『あなたに1日だけ、裁縫を、ミシンを教えてほしかったのです』
何故そんな事態になったのか、ツー様は何も、一言も教えてくれない。
推しの右側、ツー様の上司のルー部長は、腕を組んで目を細めて、なにか思うところがあるらしい。
コンちゃんに関してはミステリーだ。なんか大きな骨をカジカジ美味しそうに噛んでる。
ツー様が言うにはマグロのカマ、つまりあご肉が付いてた骨らしい。
はぁ。そうですか(なんでマグロ????)
『謝礼は、コレでひとつ』
ミシンを習いたい理由を何も言わないツー様が、
ポケットから万年筆を取り出して私の手に置いた。
『他言無用でお願いします。
SNSにも、どこにも、どうか書かずに』
それは、ツー様の職場で支給されてる万年筆で、
間違いなく数年はツー様自身が使用しただろう痕跡が、あっちこっちに刻まれてるものだった。
『ミシン持ってきます』
推しの使用済み万年筆を大事にしまって
私は自分のアパートまで戻って万年筆を飾って
2回雪道でコケそうになりながら戻ってきた。
で、ハナシが冒頭に戻るワケだ。
どうやらツー様は任務中に裂けた(?)自分の制服スラックスの前と後ろを縫い込んじゃったらしい。
「うん」
ツー様の職場は制服制で、申請すれば支給される。
「切りましょう」
「その」スラックスひとつがダメになっても特に問題無いことをツー様に確認した上で、
シャッ!シャッ!
裂けた制服はツー様の、ミシンの練習台として、余生をまっとうしてもらうことにした。
ツー様がミシンに慣れて縫いたい場所を縫えるようになってきたのは、そこから数時間が必要だった。
2/8/2026, 3:08:02 AM