安達 リョウ

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夜の海(入賞)


夏休みの思い出を絵に描いて、コンクールに出品してみよう!―――。

園のお便りの中に混じっていたその広告を見て、始めは別段気にも留めていなかった双子が俄然やる気を出し始めたのは、もう休みも残り僅かなある日だった。
それに関して俺は全くのノータッチだったので、いつ何を描いたのか知る由もなかったのだが―――
まさかそれが賞を取っていたとは。
親から知らされて、俺は大いに驚いた。

特に絵が好きでも得意でもないあいつらが、賞を?
一体何の絵を描いたのか? 少しばかり興味がある。

作品の展示が期限付きで開かれることを知り、俺は公園で双子らの自転車の練習に付き合ってくれた彼女を、極力何気ない風を装って誘ってみた。
―――もし良ければ一緒に、観に行かないかと。
彼女は一も二もなくOKをしてくれて、俺は内心派手にガッツポーズを決め込んでいた。
デート。初めての、彼女とのデート………!
のはず。だったよな?

「にいに何で落ち込んでるの」
「どしたの、何かあったの」

………。何でお前らがいるんだ? なんて阿呆な疑問は抱くまい。
そりゃそーだ、賞を取った本人ふたり連れてかないでどうするよ。なあ?俺。
またしても世話人とチビ二人、意中の彼女という取り合わせで俺達はその作品展に訪れていた。

「で? 輝かしい賞を取ったお前らの作品はどれよ」
「「あれ」」
二人同時に指差した先にあったのは。

“ひるのうみ” “よるのうみ”
と題名づけられた、真っ青一色と真っ黒一色の画用紙いっぱいの『絵』だった。

「………」
「………」

独創的、といえばそうだが………
何と言うか、うん………

「お、面白くていいんじゃない? 個性が凄いわ」
「ま、まあ………そうだな」
………これが賞を取るのだから世の中わからない。

えっへん、と偉そうに胸を張る双子どもの頭を少々激しめに撫で回して、俺はよくやったと素直に二人を労ってやる。
しかし昼の海はまあまだわかるとしても、夜の海とは一体………。

どこまでも暗い、深淵さを見事に表現している作品です。と脇に書かれた総評に、俺と彼女は深読みがすぎるとお互い顔を見合わせて苦笑した。


END.

8/16/2024, 2:05:18 AM