繊細な花
「私は繊細な花なの」
耳をくぐって、脳に溶ける甘い声。人々を魅了するそれを堪能しているのは、今だけ、この世界で自分だけだ。
周りを差し置いて気高く咲き誇ったかと思えば、色彩の無い小さな花弁を付ける。
柔らかくて暖かい蕾をつけたかと思えば、凍えるように鋭い棘を生やす。
少し触れただけで大きく育った華は落ち、囃し立てれば拗ねてがくに覆われ、誰も見向きしなくなればまた色とりどりの華を身に纏う。
複雑怪奇な花だった。
「あなたは肥料よ」
「それは違う」
初めて貴方を否定したね。驚いたように丸くなった目は、すぐ尖った三角形になったものだから、自分は急いで口を開く。
「自分は肥料では無い。それではまるで貴方が花みたいじゃあないか。自分は、人だ。貴方も人だ。自分の隣にいる貴方は、何色の花でもないよ。だから、己のことを見世物のように言うのはお仕舞い。私に言わせれば複雑怪奇、他人に言わせればヘンテコ、貴方に言わせれば繊細な、ただの人。それが貴方」
独白劇に過ぎない。全ての人生に当て嵌る言葉だ。
心を蝕む何かが通り過ぎるのを辛抱強く待つように、貴方は下唇を噛んでいた。そして再び顔があげたときにゃ、まるで気高い人。高貴な乙女。それでいい。自信に満ち溢れ、気紛れに舞い踊る貴方より美しいものなんて、自分には生涯見つけることが出来ないだろう。
紅く厚い唇が開かれる。高揚。興奮。
「ばかね、ものの譬えに決まっているでしょう?」
嗚呼、美しい。
貴方はきっと、自分だけの花束。
6/25/2024, 4:34:05 PM