ざざなみ

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『空に溶ける』

ある日突然、彼氏が病気になった。何ヶ月か前から急に体調を崩してしまい、そのままよくならなかったため一応病院で検査を受けた。
そしたら、がんが見つかった。
そのがんは手術によっても取り除ける可能性のあるものだったらしいけど、がんが見つかった時はもうかなり進行していて手遅れだった。医師からは手の施しようがないとまで言われてただ病気が進行するのを待つ日々だった。
がんが見つかってから、彼は日に日にやつれていった。私はそんな彼を心配していた。でも、どれだけ大丈夫?と聞いても彼は笑顔でただ大丈夫とだけ答えた。
彼が笑顔でいたのは、私を心配させないためだろう。彼の方が病気で辛いはずなのにそんな素振りは一切見せなかった。
そんな時、彼の体調がまた悪くなった。医師が言うには病気が前よりかなり進行してきているらしい。長くても1ヶ月持つかどうかと言われた。
私は彼との別れが寂しくなった。とうとう余命宣告をされたのだから。だから、そんな彼に涙ながらに言ってしまった。
「私、あなたがいないと無理·····。生きていくのが怖い·····生きていけるのすら分からない·····」
弱音を吐くまいとしていたのに。耐えられなかった。私には彼のいない世界が想像出来なかった。
数年という短い間でも彼と一緒に過ごしてきた時間はどんなものより変え難いから。
そんな私を見て彼は少し困ったように笑うといきなりこんな話をしだした。
『ねぇ、僕たちが初めて会った日覚えてる?』
彼の話す話がいきなり過ぎて思わず涙が引っ込んだ。
「もちろん、今日みたいな雲ひとつなく晴れてた日だったよね」
『そう、そしたら僕、初めて会った日、君にすごいこと言われたんだよ』
そう、確かあの日彼に言った言葉は“ あなたの髪の色って今日の青空をそのまま溶かしたような色だから何処にいても見つけられそうですね”って言った。
そんなことを覚えててくれてたのか。私が感心していると彼が話を続ける。
『だからさ、君が僕に会いたいって思った時は、空を見上げてみて』
「空を?どうして?」
『僕はずっと空から君を見てるから、たとえ見えなくてもきっと目は合っていると思うよ。それに
·····』
“ 何処にいても見つけられるんでしょ?”
彼のその言葉を聞いて自然と涙が溢れた。彼はきっと自分が空に溶けて私のことをずっと見守っているからって言う意味で話をしたのだと思った。
だから、自分に会いたくなった時、空を見て思い出せってこと?
会えないなら意味ないのに…。でも、会いたくても会えないのは彼も一緒なのだ。
彼はこんな時でも私を元気づけてくれるのだ。
やっぱり、彼のことが好きだなぁ〜と改めて思う。
だから、そんな彼に今度は私が言葉をかけてあげる番。
「じゃあ、あなたは私に会いたいと思ったら上じゃなくて下を見て、地上だけどきっと目が合うと思う」
『じゃあ、永遠の約束だね。お互いに会いたくなったら、僕は君がいる下を見る』
「私はあなたがいる上を見る」
そう言って二人で最後の指切りげんまんをした。
“ 永遠”というのが少し悲しくなったけど、彼はいずれ空に溶けて居なくなる。
そうしたら、もう会うことも出来なくなるけれど大丈夫。
私にはこの永遠の約束がある。たとえ、あなたが空に溶けて見えなくなっても必ず見つけ出すから。

5/20/2025, 12:27:33 PM