天津

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一年後

来年のことを私がいうと、みんな変な顔をするようになった。お父さんもお母さんも、お姉ちゃんも、じいじもばあばも。ピアノのコンクールで失敗して泣いて、来年こそはと話したときも、ばあばのお誕生日に肩たたき券を、期限は来年までねと渡したときも、みんなきまって、お腹に痛みがあるように苦しい顔をして、うそみたいな優しい声を出した。みんな何かを隠している。顔をしかめるばかりで、誰も教えてくれない。
それでもひとりだけ、笑ってくれる人がいた。
神社の御堂の縁側に行くと、いつもその人がいた。家にいては、ずっと気味の悪い目で見つめられるから、私は近所の神社で時間を潰すようになっていた。
遠くから目が合うと、その人はにっこり笑って膝をぽんと叩く。私はそこへ頭を横たえる。
雲がゆったりと流れていく。
「あなたがお母さんならいいのに」
そういうと、その人は私の髪をすきながら、優しくつぶやく。
「はやくわたしのものになるといいですね」
雲間から、太陽がゆっくりと顔を出して、私は目を瞑った。

2023/05/09

5/9/2023, 5:08:11 AM