夕食を用意したから来るように、だそう。特に何も考えず釣られたものの、玄関まであと数メートルほどまで来てふと我に返る。いい歳の男に甲斐甲斐しく世話を焼き、一体何がしたいのか。夕風に紛れて漂う匂いは、少し前に自分が好きだと言った料理のそれ。わかりやすい罠。しかしよくもあんな、ぽろっと呟いたことを覚えているものだ。止まりかけた足が再び動く。このまま何も考えず流されて、痛い目を見るならそれでもいいか。掴まれた胃袋も腹の中で頷く。ここまで入れ込むつもりはなかったのに、とぼやく脳を無視して玄関のチャイムを鳴らした。
(題:風に乗って)
4/30/2024, 5:57:40 AM