マサティ

Open App

街へ『木枯らし』

朝起きて、コップ一杯の水を飲んだ僕は街へ出る。
午前8時には起き上がり、9時前には外出する。
あらかじめ決めていたことだ。
2年間勤めた職場を退職して、飽きるまで自由に暮らしてみようと思った。幸い、半年程度なら遊んで暮らせる程の貯金はあった。
退職してから今日で3週間になる。
時間が経つにつれ、漠然とした不安が足元に忍び寄ってきた。
激務をこなしていた頃、あれだけ焦がれていた自由をうまく乗りこなせない。
行きたかった映画も釣りも、それぞれ1度行ったきり行っていない。
ただベッドの中でスマホをいじる日々が続き、これではいけないと最低限の外出を自分に課すことにした。
行き付けの喫茶店で小一時間を過ごし、図書館で昼過ぎまで本を漁る。本に飽きるとバッティングセンターに行く。
昨日も同じ1日だったのではないか。
一昨日は、明日はどうか。
今日は何月何日だったか、分からない。

夕暮れが近くなり帰路につく。
ビルの谷間が茜色に染まっていく。
木枯らしがビューっと吹く。
カラスの群れが飛び立ち、はっとして足元から視線を上げた。
見渡せど見渡せど、街には見えない道が張りめぐらされていた。
自由を求めていたはずの自分は、ただ習慣のレールの上を移動していた。
仕事を辞めても、街に出ても、つまるところ僕は僕の枠組みから逃れられないのだと唐突に悟った。

1/29/2024, 8:16:47 AM