『どうって、好きだよ』
あの日、放課後の教室で数秒間時が止まった。
好きだよ。欲しかった言葉のはずなのに、先生の顔は苦しそうだった。上手い言葉が返せなくて、そっか、って短く返すしかできなくて。
「あー……俺のバカ」
ずっと前から気付いてはいたんだ。
先生が、必死に俺を遠ざけようとしていたこと。好きだって言っても、誤魔化して逃げていたこと。それでも、俺は言い続ければ叶うと信じて疑わなかった。
「こんな未来になるなら、もっとちゃんと……」
机に伏せる。
正しい未来を選べる人間だったならどんなに良かっただろう。どうしたって後出しジャンケンみたいに、実際にそれを見てからでしか判断できない。
「先生……」
放課後の教室に、今日は俺1人。
昔、夜の学校に忍び込んだ時のことを思い出す。誰もいなくて、埋まらない心の隙間みたいで、そこに先生が来て。
期待して教室の扉を見るけれど、昔みたいに開いたりはしなかった。どうして、こうなっちゃったんだろう。
4/19/2024, 4:26:51 PM