一筋の光が、僕を照らしている。
白い大理石の床にぴったりと顔をつけ、少女は眠っていた。
ヴェルサイユ期の宮殿を思わせる、豪奢できらびやかな装飾のこの部屋は、僕たち2人にはどうにも広いようだった。その美しさが、寂しかった。
「エリオット」
澄んだ声が、僕の名前をよんだ。声に違わぬ、澄んだ瞳がこちらを向き、豊かな白髪が揺れる。
「起きたのかい、エラ」
「起こしてくれてもよかったのに」
「…よく眠っていたから」
ほぅ、と一度あくびをついて、エラは体をゆっくりと起こした。一筋の光が、指し示したように煌めき、鏡に反射してエラを照らした。
「美しいね」
思わず僕は呟く。彼女の背中には、大きな大きな、白い羽がある。
「君の体には、また花が増えたようだね」
「…ええ。」
エラの体には、色とりどりの花が咲き乱れ、少し白すぎる肌を彩っている。が、それが彼女にとって良いものであるかどうかは、僕には分からなかった。
「天使に、なるのかい、君は。」
「…エリオット、あなたにも分かるでしょう。この光が、天からの声であること。一筋の光が私を照らすとき、私は飛び立たなければならないの。羽が生えたものの、昔からの掟だわ。」
「でも僕は、」
「エリオット」
彼女の声が僕の言葉を遮る。目を伏せ、エラは哀しみをその体にたたえていった。
「私も行きたくなんかないわ。やりたいことがたくさんあったの。…でもこの羽と、花の生えた体で何ができるというの?皆の目は私を刺すナイフのよう。もう、終わりにしたいの。うんざりなのよ。」
「エラ」
彼女が顔を上げる。その瞬間、僕を照らしていた一筋の光は、彼女の頭から爪先までを、一心に照らした。澄んだ瞳が揺れる。豊かな白髪が煌めく。
「…愛していたわ、エリオット。」
「僕もだ、エラ。」
澄んだ瞳は、もう見えない。
彼女の寝そべった床が、少し温かっただけだった。
11/6/2023, 8:21:09 AM