『鐘の音』
どこからか鐘の音が聴こえてきた。
なんだか、その鐘の音に呼ばれている気がした。
音が聞こえて来た方へ進んでいく。
そこに立っていたのは一人の男性。
灰色に近い銀色の長い髪。
黒い着物を着ている。
とても美しい男性。
”あぁ、来てくれたか”
私の方を振り返り、微笑みながらそういう男性。
なんだか、その笑みがとても懐かしい。
”久しぶりだね”
涙が出てきた。
ずっと塞がらなかった心の穴が埋まったようだ。
”何百年ぶりだろうか。会えてよかった”
その人が言葉を紡ぐ度に涙が出てきた。
今まで溜め込んできたものを全て吐き出すように。
私はその人の胸に飛び込んで泣いた。
”よしよし。待たせてしまったね”
この人は、私が前世で恋をした人。
愛し合っていたのに、彼は妖で私は人だった。
生きる時があまりにも違いすぎる。
私は先立ってしまった。
そして、生まれ変わった。
ずっと心に穴が空いたようだった。
生きる意味を見いだせなかった。
けれど・・・。
”見つけるのが遅くなってしまった。すまない”
「ううん。いいの。また逢えたのだから。」
”契りを結ばないか”
「契りを?」
”君が妖になり、私と同じ時を生きられる”
「本当?もう、別れなくていいの?」
”あぁ”
「あなたとずっと一緒にいられる?」
”もちろんだ”
「結ぶ。もちろん。あなたと離れるのは嫌だから。」
”なら、そうしようか”
それから、契りを結ぶ義を行う。
互いの血を舐め、両手を固く繋ぎ、言葉を紡ぐ。
”我と永遠の時を生きよ”
”貴方と永遠の時を生きる”
”我が名は銀狼”
”我が名は美月”
そして、契りを結んだ。
二人の永遠の時が邪魔されぬように。
永遠に幸せでありますように。
8/5/2024, 1:43:30 PM