小絲さなこ

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「デートではない」


待ち合わせ場所に現れた幼馴染は、いつもより大人っぽくて、眩しくて、息が止まりそうになった。

「なにボーッとしてんの。エスコートしてくれるんじゃなかったの?」
「あ、うん。ごめん。ちゃんとやる」
「ん、期待してる」


今日は、他県にある姉妹校からの交換生を案内するための実地練習だ。
断じてデートなどではない。

大通りを歩き、名所を巡りながら、この街のことを軽く説明していく。

ひと通り案内をし、近くのカフェに入った。
断じてデートなどではない。


「……どうだった?」
「うーん。クイズ形式は良いと思う」
「良かったぁ」
「だけど歴史に関して、そこまで細かく説明しなくてもいいんじゃない?」
「いやー、でも」
「もっとラフな感じでいいと思うけど。この店の酒饅頭美味しいとか、お土産買うならここが良いとか」
「……む、難しー」
「あと、なんていうか、本物のガイドさんみたいで知識すごいなーと思うけど、色々と高校生らしさに欠けるっていうか……」
「うわー、ザックリきたー」
「あと、上手いこと言おうとしてる感がすごいし。そうじゃなくて……多少下手でも自分の言葉で言ったほうがいいんじゃないかな」

今日付き合わせたお礼だと、カフェ代を支払う。
断じて、デートなどではない。

いつか経験するであろう、初デートの実地練習である──そういうことにしておかなければ、初恋の相手をこんな風にエスコートなんて出来ないのだから。



────上手くいかなくたっていい

8/9/2024, 4:01:28 PM