"好き嫌い"
散歩の途中、折り返し地点で近くにあったベンチに座って休憩する。
「みゃあ」
それなりに歩いたはずなのにまだ体力が有り余っているらしく、ハナが足元で大声で鳴いた。
「本当元気だな、お前……」
雲は若干多いが晴れている空を見上げながら呟く。
「大我」
不意に下の名前を呼ばれ、身を強ばらせるがハナが威嚇の声を出していないので警戒を解く。
だが念の為少し警戒しながら声を辿って声の主に視線を向けた。
「……お前か」
足元にいたハナを抱き上げて「はよ」と挨拶をする。飛彩も「おはよう」と挨拶をすると、ハナを優しく撫でた。ハナが気持ち良さそうに喉を鳴らす。
身を端に寄せて隣に座るよう促して、隣に座らせた。
「この前もここを通ってなかったか?」
「なんか場所の好き嫌いが出てきて、最近じゃこっちの方ばっか」
「そうか」
俺の言葉に小さく頷いた。その顔は心做しか少し嬉しそうに見える。つられて口角が上がる。
それもそうだ。好き嫌いが出てきたという事は、成長している証拠。
子猫と言うには大きいが、成猫と言うには少し小さい身体にまで大きく育った。身体はもう少し大きくなるはず。
だが身体が大きくなるだけでは大人にはなれない。大人になるには、心の成長も必要。心の芽生えや成長が少しずつ見られはじめて胸の奥が暖かくなった。
その成長を言葉にすると、改めて感動し胸の奥が暖かくなる。
「今日早ぇんだな。時間が前倒しになったのか?」
「いや、確認したい事があるから、いつもより早く出た」
「っそ。……んじゃそろそろ行く。早く帰って飯用意しねぇと。またな」
立ち上がってハナを地面に降ろして手を振る。
「あぁ、また」
手を振り返して踵を返し、歩き出した。だんだん遠のいていく背中を見送る。
「んみゃあ」
ハナが俺を呼ぶように一声鳴く。前を歩くハナの背中を見ながら歩みを進めた。
6/12/2024, 12:50:34 PM