雲ひとつ無い空に、一筋の白い煙が登っている。
誰かが、弔われているのだ。
あの方角には、大きな石棺のような火葬場が完成したと、最近風の噂で聞いた。
祖先から引き継いだ、視覚、嗅覚、聴覚、それらの鋭敏さが、山二つほど越えた先の、靄のような煙の筋を当然のように感じ取る。
これが、我々という種族が、この世界で生き残るために獲得してきた、『進化』というものなのだろう。
だが、同じ種族であるからといって、争いが全く無いわけではない。
番となる別個体の奪い合いから始まり、住む場所、資材の確保、任務や役割の会得…数え出したら終わりが分からないほど、争いの種になるものは膨大に有る。
我々は、数十個体ほどで形成される群で生活しているが、群同士で争うこともある。
そういった時には、敵味方関係なく血が流れたり、命を落とす者が出たりすることもあるのだ。
あの煙は、おそらく群対群の争いで喪われた者に違いない。
群は基本的に最も優れた個体が長となって、統率する。
そのカリスマ性の前では、謀反の種も大きな脅威に成長することなく早々に摘み取られてしまう。つまり、群を維持するため、長は他の個体を難なく動かせてしまう力を持つ。
異分子に対しては特に敏速に。
したがって、群内の争いは小規模で、命が奪われるなど、これまで前例はなかった。
ふと、頭上を影が横切り、着地点に素早く顔を向けた。
「シロヨクか」
乳白色の翼を折り畳み、目の前に降り立つ女系の個体―シロヨクは、笑顔で小首を傾げた。
「タカヅメじゃないか。此処で何をしてるのさ?」
私は先ほどの煙が登っていた方角に顔を向けて言った。
「誰かが弔われているみたいだ」
シロヨクも同じ方角に顔を向けると、
「ふうん。また争いが起こってるんだね。こんな気持ちのいい快晴の日なんてあまり無いのに、争い事に使うなんてもったいない」
と、つまらなそうに言って、翼の手入れを始めた。
シロヨクは、この群の中でも珍しい一対の白い翼を背に生やしている。
我々の群は、翼が退化してしまった個体がほとんどを占める。
代わりなのかどうかは分からないが、タカヅメのように、尖った石槍以上の鋭さと硬さを持つ爪が両手に生えている者や、虫の羽音のような高周波の声音を持つ者など、ある部位が特異な変化をしていたり、高い能力を内包していたりするのだ。
その、個体の特異性を名前に反映するのが、
この種族のルールだ。
シロヨクは白い翼を持つが故、タカヅメは鷹という鳥類の一種に似た爪を持つが故に、それぞれ名付けられたのだった。
#快晴
4/14/2024, 10:38:04 AM