Noname

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 突然の別れを惜しむように君は、ゆっくりとまばたきし、眉を悲しませた。雨の音で最初に何を言ったか聞こえなかったけれど君は、わたしに話しかけている。
「悲しいけれど、さよなら」
「うん、またね」
 嘘つき、悲しくなんてないくせに。
 ずっとずっとわたしに飽いていたくせに。
「もしも、」
 そう言って君が傘をわたしに差し出す。
「もしも、また会えたら」
「この傘を返せって?」
「うん、だめかな…?」 
 あぁ、本当にずるい。だめって言わないことを知っていてこんなことを言うんだ。
「もちろんいいよ」
「うん、またね!」
「バイバイ」
 君に背を向けてわたしは、走るよ。涙をみられたくないから。もう会うこともない君よ。わたしは、君が好きだった。あれ、あぁ、そうか。

突然の別れを惜しんでいるのは、
私の方じゃないか。


『別れを惜しむ人々が涙を流し去っていくことが
 なくなりますように。』

5/19/2024, 4:08:01 PM