つぶて

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 卒業式では泣かなかった。たとえ高校が違っても、僕らの関係は変わらないと信じていた。毎日会わなくたっていい。その程度のことで僕たちの仲は崩れたりしないとたかを括っていた。なのに、あいつは一人、馬鹿みたいに泣いていた。普段はクールなあいつが泣くなんて信じられなかった。僕たちは揶揄いながら、これからも遊ぼうぜと励ましていた。
 高一の5月。久しぶりにみんなと会った。1ヶ月で見た目が変わるはずもなく、誰も何も変わっていなかった。今まで通りふざけ合う時間。なのに、かすかな違和感があった。なんとなく会話のテンポが違う。言いようのない不安が押し寄せた。久しぶりの再会だったのに、僕はどこか楽しくなかった。
 家に帰り、違和感について考えた。そして気づいた。盛り上がる話題は全部過去の思い出。現在のことじゃない。今を共にしていない以上、共通の話題は過去にしかないのだ。
 僕は呆然とした。当たり前のことなのにショックだった。互いに別の道へ歩み出すとは、今を共にできなくなるということだ。
 卒業式で泣いていたあいつを思い出して、僕の中からあいつと同じ涙が溢れてきた。馬鹿だなと思った。いつも後になって実感する自分は馬鹿だ。
 それからだ。僕は節目というものを大事にするようになった。

7/7/2023, 7:47:15 AM