Morris

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いつか聞いた別れの歌を口ずさむ。
別れの一杯を交わすことなく、10年弱の決して短くはないはない過去を、紙切れ一つで終わらせてきた。
未遂とはいえ、恋敵──ドクターを殺そうとした。ロドスだけじゃない、カランドにもいられなくなった。
でも、不思議と後悔はしていない。
ドクターへの憎悪も、エンシオディスへの好意も、今はもう感じない。

誰も近寄らないであろう森の中、私は一人静かに腰を下ろす。酷い目眩がした。
手首からは絶えず生命が滴り落ちて、もうすぐで無くなる──罪人にふさわしい最期だ。

痛みも寒さも薄れてきた。
確か昔もこんなふうに迷い込んで……彼に助け出してもらったんだ。
血と傷だらけになりながら、剣を振るう彼の姿はまだ鮮明に思い出せる。

「会いに、行くよ……だから」

最後の力を振り絞り、手を伸ばし、顔を上げる。

「俺はここにいるよ」

懐かしい声。暖かな手の感触。
こちらを覗く青い眼と、流れる黒い髪は間違いなく彼のものだ。

「ごめんな、待たせてしまって……手当してするから、一緒に帰ろう」

思い出に浸りながら、彼の腕にこの身を委ねた。


『騎士は約束を違えたことがない』

お題
「光と闇の狭間で」


※更新前の↓
「俺はここにいる、だから生きてくれ」
懐かしい声がする。揺らいだ決意に傷つけられた私を、貴方はまた守ってくれるの?


12/3/2022, 10:00:16 AM