一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・A or B

 会社の同僚が体調不良で仕事を休んだので、昼休みに私は彼女にメッセージを送った。
―帰りに何か差し入れ買っていこうか?
 彼女と私は同じ沿線上に部屋を借りていて、私は何度か彼女の部屋を訪れたことがあった。
 彼女からの返信が来ていたのは、夕方だった。
―ありがとう、でも遠慮しとくね。全然元気だから心配しないで。
 生気のない彼女の顔が脳裏をよぎり、妙に心がざわついた。最近の彼女は塞ぎがちで、タスク管理ができなくなっていた。
 どうメッセージを返そうか? 深追いして追い詰めるようなことになってもよくないよな。
 マゴマゴしているうちに、スマートフォンが彼女からのメッセージを知らせた。
 そのメッセージに私は固まった。
―眠れないほど、辛いことはない。
 え? 何これ? これはどっちに読み取ればいい?
  →A.眠れないことが一番つらい 
  →B.辛いけれど睡眠不足になるほどではない。
 ヘルプなのか、日常会話の一端なのか。私は食い入るようにそのメッセージを眺めたが、デジタルの行間は何も教えてはくれない。
 返信を考える時間がもどかしい。きっとこれはAのヘルプだ。突き動かされるように私は彼女の部屋に向かった。
 もしBなら、お節介だと笑い飛ばしてくれたら上々だ。

テーマ; 眠れないほど

12/5/2024, 5:40:57 PM