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「君はいつもひらひらして、楽しそうだね」

暖かくなってきた風に乗ってカーテンが揺れる。
最初は忌々しかったそれも、今ではすっかり友達だ。

「風に乗るってどんな感じ?」

尋ねるというていで呟き目を閉じる。
考えるのは、カーテンになった自分。春のぽかぽかした日差しの元でひらりひらりと優雅に舞えたら。

どうせなら、こんな陰気臭い部屋の真っ白なカーテンじゃなくて、明るい部屋の、色鮮やかなものがいい。

ふわっと一際強く吹いた風に乗って、カーテンが私の頬を撫でていく。なんだよ、君も私のことが好きかい?



―――懐かしい夢を見ていた。懐かしい、と思う記憶すらこの部屋の中だなんて、つまらない人生。

「起きたの?」

母の優しげな、悲しそうな声。ゆっくりとそちらに顔を向ける。あのカーテンの前に立つ母の顔がよく見えない。

「……あ、さ……ん」

声が掠れる。そういえばやけに体が重い。

「……がんばったね」

「……ん」

ああ、そっか。もうだめなんだ。

不思議とあまり悲しくはない。しいて言うなら、優しい両親よりも先に逝くのが申し訳ないけれど。

「あり、がと」

残る力を全て込めて声にした言葉は、届いただろうか。
それを確認することも返事を聞くこともできずに、私は眠りに落ちた。



ひらり、ひらり。

風に揺れるカーテンが、だらりとベッドからのびる少女の手を撫でた。

まるで、もう目覚めることのない友を労るように。

10/11/2022, 12:19:03 PM