いろ

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【ココロオドル】

 私を作った神様は言った。どうかこの鮮やかな世界で、ココロオドル経験をたくさんしてねと。だけど私にはその言葉の意味がわからなくて、神様の言うココロオドル経験を探して世界中を旅している。
「うーん。話を聞いているに、君はもう既にココロオドル経験をたくさん重ねていると思うけどね」
 旅先で何度か顔を合わせるうちにすっかりと知人の枠に収まった青年は、麦酒を傾けながら朗らかに笑った。夜空を流れる白銀の星々の光が、彼の朱く染まった横顔を照らし出す。今日は三十年に一度の流星群の夜だった。
「たとえばだけど、この星降る夜をこうして僕と二人で見て、君は何を感じるんだい?」
「とても美しいと、そう思うわ」
 私に埋め込まれたプログラムは、そう判断している。と、青年はゆったりとした動作で頬杖をつき、柔らかく微笑んだ。体の奥に妙な騒めきがあって仕方がない。落ち着かせるように胸のチップをそっと手で抑えた。
「それが、僕たち人間がココロオドルと称すものだよ。機械仕掛けの麗しきの姫君」
 ああ、ならば貴方に偶然出会うたびに、貴方が微笑みかけるたびに、整理が全くつかなくなるこの思考も、ココロオドルというものなのだろうか。熱をもった頬を誤魔化すように、私は麦酒を思いきり煽った。

10/9/2023, 9:56:45 PM