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「飛べない翼」


その日の大会では3位だった。
コンディションは悪くなかったはずだが思ったより動きが鈍かった。理由はわからない。ここのところずっとこんな調子だ。

「おめでと」
13位の選手に握手を求められ応じる。彼女も数年前まで上位常連の選手だった。わたしも同じ道をたどり始めているのだろうか。

「ありがとうございます」
わたしはただのスランプですか、それともこのまま下降線をたどりますか、あなたと同じように。
彼女にも自分にも意地の悪い質問を飲み込んで笑顔をかえす。

悪くないわよ。彼女はわたしではなく遠くのポールを見つめながら静かに言った。
そうですかね、どうも身体が重くて…。
そうではなくて。彼女は視線をわたしの顔に戻し続けた。

「うまく飛べなくても悪くないわよ、今の私」
理解できるのはもっと先になると思うけど言っとくね、そういい終えて彼女は軽やかな足取りで立ち去った。

11/11/2023, 11:04:58 AM