「文系科目なんてやる意味あんの?」
「歴史とか覚えて将来使うの?」
声が変わり始めたガサガサ声の少年は言った。
少年は自然科学の実験が大好きだった。
魔法のような現象には明確に理由が存在し、手順を守れば誰でも魔法を使えるのだ。それは面白いだろう。
少年はパズルが大好きだった。たったひとつだけの正解に自分の力だけで辿り着けた時の達成感はたまらない。人より早く解ければ更に快感は増すだろう。
だから少年からそんな言葉が出るのは時間の問題だったのだろう。
そんな少年に私はある言葉を授けた。
「信仰なき科学は不完全であり、
科学なき信仰は盲目である。」
これは天才物理学者と呼ばれたアルベルト・アインシュタインの言葉である。
少年が好きな魔法は少年の身の回りに溢れ生活を便利にしている。だが、少年の好きな魔法は使い道を間違えば簡単に人を不幸にできる。
魔法がキラキラした魅力を保つには文系科目が持つ思想や歴史が不可欠なのだ。
世界には”知らぬ”が故に起こった不幸が沢山ある。
安全な物に怯えて人を傷つける人達は今も尚絶えない。
不幸の溝に足を取られず道を進むには理系科目が持つ論理や知識が不可欠なのだ。
明確な答えを出せるかどうかで点数を付け評価するという学校教育は理系科目との相性はよく、文系科目への疑問が湧きやすい構造だ。
少年が少年であるうちはどちらも注視するのは難しいだろう。大人と呼ばれるようになった私ですらそれは難しい。
でも少年、見ていない方向にあるものを無視したり卑下したりしては絶対にいけないよ。
少年は完全には腑に落ちていない様子だったが何かは伝わったようだ。
少し説教ぽくなってしまったな。あとで少年の好きなお菓子でも買ってあげるとしよう。
8/18/2024, 10:34:17 PM