導(しるべ)

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『お前はヴィランになる運命だった』。
そんなことを、もしも神様が舞い降りてきて言ったタチの悪い冗談なら、どんなに良かったか!
こんなこと望んだわけじゃなかったのに。
こんなもの、好きでなったわけじゃないのに。

拠点兼住居のソファで、気付いたら眠っていた。
体が固まって痛い。
机の上には、昨夜緊急任務の際の報告書。
そういえば書いてるうちに眠くなってそのまま寝たんだっけ、と考えながら、台所に向かってインスタントコーヒーをマグカップに注ぐ。

『お前はヴィランになる運命だった』
それは、自分が嫌いな自分が、自分に向かって放った言葉。
もしくは、自分の中に棲み着くすっごく性格の悪い神様が俺に言ったのかもしれない。
そんなことすら、今は思い出せない。
タチの悪い冗談だったら良かったと、何度思ったのかは、数十、数百億の年月を宇宙と過ごすうちにすっかり忘れてしまった。

「さて、報告書書きますか……」
まだ完全に覚醒していない意識と頭を安っぽい味のコーヒーで無理矢理叩き起こしてペンを持つ。
神様が舞い降りてきて言ったタチの悪い冗談なんて頭の中から消し去った。

7/27/2024, 10:31:19 AM