『街へ』
手元のノートをそっと開く。
そこには見覚えのある文字が並んでいる。
愛おしい筆跡をそっと撫でる。
窓から彩度の低い光が入ってくる。
穏やかな昼下がり。
私はノートをカバンに入れて家を出る。
今日こそ確かめなくちゃいけないことがある。
電車に揺られて30分。乗り換えてまた1時間。
懐かしい匂いがする。海の匂い。
あの日とおなじ冬の海。あなたの住んだ街の海。
波の寄せる砂浜に座って、またノートを開く。
3年前の今日と同じ日付に、私と彼が最後に会った日のことが書かれている。
この街で私たちは夢を見ていた。
ねぇ、どうして私を振ったの?
あなたは今どこにいるの?誰にも何も告げずに遠くに行ってしまって、私は何を願えばいいの?
この街にあなたはもういない。
ひんやりと冷たい風が髪を撫でる。潮を孕んだじっとりとした風。
未だに忘れられない私にあなたは呆れてるかな?
このノートに、私を罵る言葉を探してた。
私を嫌いになった証拠を、別れる決断に至った証明をずっと探していた。
愛してるって最後の言葉を嘘だと思いたかった。
そうじゃないとあなたに囚われて逃げられないから。最後までひどい人。
そんなんだから、こんな街まで来ちゃうのよ。
ノートを破って海に投げる。波が少しづつ破片を攫う。水平線のその先の遠くにゆっくり押し流す。
私はうずくまって動けない。
愛してるの文字が海に溶けるまで、動けない。
2026.01.28
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1/28/2026, 10:55:46 AM