たしかに彼女は何かを言いかけた。
しかし、はくはくと動く口は言葉を紡ぐことはなく、彼女は目の前から身体を残していなくなってしまった。
「どうして、」
思わず口にしたのは自分の方で。彼女の顔は一切動くことはなくて。
「どうして、あなたは、」
その先を言いかけて、唇を噛む。もう、この言葉を放っても彼女は受け取ってくれないから。
ごめんねも、好きも、もう言えない。
後悔が涙になって頬を伝う。ぼたぼた流れるそれは、彼女の顔を濡らしていく。それでも彼女の瞳が見えることはなかった。
自分の弱さが原因と分かっていても、彼女の手を離して歩むことなど到底できないと思った。
【言い出せなかった「」】
9/5/2025, 9:26:00 AM