《ココロ》【ホラー】
私は森岡ララ、28歳。
コンビニでバイトしている、所謂フリーターだ。
一度、事務職の正社員になったが人間関係が合わず1年で辞めてしまった。
以降、バイトを転々としている。
私は他人に言えない胸の内を、自分のココロに向かって話しかけていた。
「はぁ、お母さんったら、いつまでも実家にいるんだったら家事を手伝うとか、家に少しでもお金入れるとかしなさいだって。」
「化粧品だとか服とか買わなきゃだし、ゲームにも課金しなきゃいけないし、お金ないっつーの」
誰もいない所で、声に出して言う時もあれば、声に出さずココロに話しかける時もある。
(はぁっ!?なんで私がこんなトイレ掃除なんかやらなきゃいけないの?綺麗な仕事しかしたくないのに)
(店長うるさい、たかだか数分遅刻したくらいで注意してくるなんて器小さすぎる!)
バイト先で、声に出さずココロに話しかける。
ココロに話しかけると、ココロは私の頭の中に話しかけてくる。
『そうなの?大変だね』
『ララは頑張っててすごいね』
『みんな、ララにもう少し優しくしてくれるといいのにね』
ココロはララの欲しい言葉をくれる。
そうやって、ココロとの会話を続けていたある日の事。
バイトに行くため着替えようと服を脱いだララは自分のお腹に口がある事に気がついた。
「え!???なに?!?何でお腹に口があるの!?」
驚愕のため見開いた目でお腹に出来た口をジッと見る。
口の形に似たできものかもしれないと思って触ってみたが、感触は唇そのものだった。
唇をめくってみると、なんと歯まであったのだ。
「きもっ、怖っ!」
ララは顔を歪めた。
そうだ、お母さんに見てもらおう。
ララは2階の自室から出て、リビングの掃除をしていた母親に声をかける。
「お母さん!ララのお腹に口が出来たんだけど!」
「えぇ?何言ってるの?お腹に顔を書いたってこと?へそ踊りでもするの?」
笑いながら母が言う。
「違うって!本物の口が出来たの!ほら見て」
ララはトレーナーの裾をまくり、腹を出し母親に見せた。
「口なんかないけど・・・何?ドッキリなの?お母さん掃除で忙しいんだから邪魔しないでちょうだい」
母は邪魔だと言わんばかりに、掃除機をかけ始めた。
ララは視線を母から腹に向けた。
「え?さっきはあったのに!どうして?見間違えた?」
まくったトレーナーを下げ、階段を上がり自室に戻る。
壁際にある姿見の前に立ち、もう一度トレーナーをまくりお腹を見る。
「えっ!??」
そこにはやはり口があった、それと同時に目玉が1つ増えていた。
口がへその辺りにあり、目玉は右脇腹辺りにある。
目玉はギョロギョロと動き、目を凝視していたララと目が合った。
「ぎゃあぁああーっ」
悲鳴の声に驚いた母親がドタドタと急いた様子で階段を上がってくる音が耳に届く。
「どうしたの!?ララっ!」
ドアを開けた母親は、腰を抜かし床に尻餅をついているララの側に駆け寄る。
「目が!お腹に目がっ」
ララはトレーナーをまくるが、やはりララのへそ以外には何もなかった。
「ララ・・・、本当どうしちゃったの」
心配の中に呆れを含んだ顔でララを見る母。
***
母親は結局信じてくれず、この目玉と口は他の人が見ると消える事が分かった。
しかし、分かったところで常時腹を晒しているわけにはいかない。
病気を疑いネットで情報を調べたが、こんな症状の病気なんて出てこない。
ララはココロに話しかける。
「ココロ、なんとかしてよ。辛いよ嫌だよぉ、なんで私だけこんな目に、こんな体で生きていきたくないっ」
お腹の口が答えた。
「そう、じゃあ私が体をもらうから、あなたはもういらない。私もいい加減あなたの愚痴を聞くの疲れたの」
ぐぇええっ
その声と同時に、ララは見えない何かに首を絞められた。息が出来ずに手足をバタつかせてもがく。
「コッ、、ココロォ」
首元を締める何かを引き剥がそうと、自分の首を指で引っ掻きながら涙目でララが呻く。
「さようなら」
ララの体から力が抜けくず折れる。
***
母親side
「行ってきまーす」
ララは笑顔で母親に声をかけ、玄関扉を開け出ていく。
「いってらっしゃいララ」
あのお腹に口が生えてきたと言ってきた、一件からララが変わった。
甘えがなくなり、バイトもやめ正社員の仕事に就き家に毎月お金を入れてくれるようになった。
家事も率先して手伝ってくれるようになったし、会社でも上手くやっているようだ。
まるで、生まれ変わったみたい。
「なんてね」
2/12/2025, 7:02:43 AM