与太ガラス

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 母親の仕事の都合で転校が多い子どもだった。そんな僕にも忘れられない親友との思い出がある。小学生の頃、仲良くなった友達と秘密基地を作って遊んでいた。公園の奥の方、深い茂みの中に立派なクスノキがあった。そこに登って枝を集めて小屋を作ったのだ。

 そこでやった遊びはすべて自分たちで考えた特別なものだった。木の枝で作るスリングショット、落ちるときに葉っぱがくるくる回るきりもみシャトル、枝にロープを吊り下げた上り棒。この頃の思い出は忘れることができない。

 毎日のように通った秘密基地も僕は長くはいられなかった。転校の前日、親友のカッちゃんと秘密基地で別れの時を過ごし、そのときにある約束をした。

「20年後、またこの場所で会おう。それまでこの秘密基地は俺が守ってるからな、絶対に忘れるなよ!」


 そしていま、僕はあれから20年後のあの公園の前にいる。そこの景色はすっかり様変わりして、公園どころか緑のひとつも見当たらない。見上げんばかりに大きなビルが建っていたのだ。

 幼い子どもの約束なんて、所詮果たされないためにあるのか。そう嘆きながらそこを去ろうとすると、

「ナオキ!」

 僕の名を呼ぶ声がした。そこにはスーツを着たカッちゃんの姿があった。

「見ろよ、最高の秘密基地だろ?」

 カッちゃんは土地を買い取って、公園のあった土地に自社ビルを建設していた。

4/9/2025, 1:42:11 AM