仕事がらというのと、趣味でというのもあり、書斎にはそれなりの本がある。
整頓されているとはお世辞にもいえず、今取り掛かっているものに関連するものがそこらへん、少し前のがあそこらへん、という具合に、本人しか分からない分け方で積み置かれているものだから、当然本人しか片付けることもできない。そして、本人は片付ける必要性を感じていないものだから、つまりいつまでたっても片付くことはないのだ。
たまには掃除をしたらどうなの。
ほら、この本なんて、いつからここに積まれているんでしょう。うっすらほこりをかぶっているじゃないの。
書斎に立ち寄った妻があまりの汚れ具合に呆れ、
「わたしが掃除を手伝う」
と言うのをやっと追い出して(見られて困るものがあるわけではなく、体が丈夫と言い難い妻にほこりだらけの部屋に長居してほしくない)、書斎の主はひとつ息を吐く。
この本なんて、と指さされた本は、確かにほこりをかぶっている。これは確か、ここに越してきた頃に取り掛かっていた件だ。
懐かしいな、と思わず手に取り、ぱらぱらとページをめくると、その真ん中付近に紙が挟まっていた。
開いてみると、押し花だった。
なんてことはない、庭に咲いている花だ。
そう、確か、庭で遊んでいた娘が摘んできて、机の端に並べたのだ。
書斎の主は、押し花を紙に挟んで、元のように本に戻した。本のためを思えば不適切な行動かもしれないが、これはこのまま残しておきたいと思った。
表紙のほこりを払うと、書斎の主は、収めるべき本棚……の前の本の山を崩しにかかることにした。
『いつまでも捨てられないもの』
8/18/2024, 2:07:50 AM