「秋は恋の季節だねぇ」
友達がそんなことを言い出した。
「読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋……とかは聞いたことあるけど、恋の秋?」
綺麗に色付いた紅葉の樹の下。
さっきまでお菓子片手に本を読んでいた私は、ちょっと身体を動かそうとストレッチしていた。そんなところに、友達が突拍子もないことを言い出した。
「全て制覇する勢いの君に! 恋の秋もいかがですか?」
「制覇するなら次は芸術の秋とかやりたいけどねぇ」
全く興味が湧かず、再び本へと手を伸ばす。
「オススメの物件がありまして」
「いやぁ……私は今やってる秋で十分だよ」
それでも尚諦めようとしない友達に、私はやんわりとお断りの言葉を伝える。
「じゃあ、花は? 園芸の秋!」
突然の方向転換。
必死な友達に、思わず怪訝な顔をしてしまう。
「何? 私にいろんな秋をやらせたいの? 園芸の秋って、何の花を育てるの?」
友達はこっちを真っ直ぐ見つめると、真剣な顔で言った。
「私と一緒に百合の花を育てよう!」
「百合……って」
紅葉に負けないくらい、顔を真っ赤にして伝えてくる。
百合は通年で出回るが、旬は今じゃない。初夏だ。
恋を勧めてきた友達が、いきなり今度は園芸? しかも百合?
恋、そして、百合……?
そして、全てを理解した私も、紅葉のように真っ赤になってしまい、さてどう返したものかと、本を閉じて考えるのだった。
『秋恋』
9/21/2023, 8:35:07 PM