眼前に広がるのは抜けるような青空。真綿のような白い雲が風にのってゆっくりと流れている。この時間ならまだ人もたくさんいるのだろうが、人々のざわめきはまるでさざ波のようで、時間がゆったり流れているように感じられる。
ふと、歌が聞こえた。耳を澄ませてみる。
『翼をください』だ。
『この背中に鳥のように 白い翼付けてください』
『悲しみのない自由な空へ 翼はためかせ行きたい』
私は思わずクスリと笑ってしまった。
「悲しみのない自由な空の上」へゆくために、私は自分の白い翼を捨てようとしているのだから。
なんて皮肉なんだろう。
屋上のフェンスに寄りかかりながらクスクスと笑っていると、不意に涙が溢れた。
目の前を小鳥が通りすぎていく。小さな翼を動かして。
ねえ、鳥さん。
時には強い逆風が吹き嵐が訪れることもあるこの空を、どうしてそんなに一生懸命に飛んでいるの?
いっそその翼を捨てて「悲しみのない自由な空の上」へゆきたくはないの?
ああ、今日も教えてくれないんだね。
8/22/2023, 8:49:46 AM