愛用の虫取り網を片手に、
僕は草と土の匂いの中を駆け回った。
顔にかかる蜘蛛の巣を払って、
草に足を取られ、転びながら探検する。
こめかみやら鼻先やらを通って顎に汗が流れる。
唇がなんだかしょっぱい。
夕暮れ。
涼しい風が木々の間を通り、雨の匂いがしてきた。
そんな中ヒグラシが静かに鳴く。
カナカナと鳴る林の中に包まれた
かごの中の一匹のセミは、
場違いにもミンミン鳴いていた。
「もう帰るから逃がしてあげる」
手の中で小さなセミは震えていた。
あぁ、怖かっただろう。
仲間はずれにさせてごめんね。
夕立の降る林の中で、
セミの声がパタリと止み、
葉が水を弾く音だけが聞こえる。
僕はとうとう一人ぼっちになったことを知った。
[夏]
7/14/2025, 11:42:01 AM