皆はどうだろうか。
俺の記憶はどちらかと言えば、辛いものばかりが鮮明に残っている。
親に初めて手をあげられた日。
飼ってた犬が首輪を外して駆け出した背中。
恋人に別れを告げられた日の青空。
そのどれもがもう遠い昔なのに、色も匂いも思い出せる。
根っからのマイナス思考がそうさせるのか、片手で足りるくらいの幸せな出来事は、反対に朧気だ。
チラチラと舞い戻るその記憶が煩わしく、それでいて忘れたら俺じゃなくなる気がしている。
多分俺という人間を作りあげたその記憶は、忘れてはいけない物なのだろうと思う。
明日から上書きされる新しい記憶が、穏やかであればいいとは……思っている。
7/17/2023, 1:12:40 PM