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「失われた時間」



「ねえ、私とデートしたいのよね?一つお願いを聞いてくれたら、今度デートしても良いけど」

 突然キョウコから、そんな話を持ち掛けられた。キョウコは、俺の行きつけのバーに最近来るようになった子だ。初対面で一目惚れをした俺は、勇気を振り絞って声をかけた。何とかライン友達にはなれたものの、デートに誘っても、けんもほろろな対応だったので、諦めかけていたところだった。

「お願いってなんなの?」
 
 俺は恐る恐る問いかける。

「明日、私の祖母から封筒を預かってきてほしいの。あなたのことは話しておくから」
 
 どうやら、その時間にどうしても外せない用事があるらしい。だが、上京したばかりで知り合いがほとんどいないキョウコには、俺しか頼む相手がいないようだった。
 ーなんだ、そんなことでいいのか。どんな難題をふっかけられるかと冷や冷やしていた俺は、ほっと胸をなでおろして、二つ返事でキョウコの依頼を引き受けた。

 そして次の日、教えてもらった住所を頼りに、キョウコの祖母の家を訪ねた。
キョウコから指定された時間に呼び鈴を鳴らすが、玄関は開かない。

「手を上げろ」

 突然の後ろからの声に驚いて振り向くと、拳銃をこちらに向けた警察官が立っていた。

「詐欺の容疑で逮捕する」

 そう告げられた瞬間、俺はキョウコに騙されていたことに気が付いた。
 キョウコの連絡先は、ラインしか知らない。きっともう、ラインも消されているだろう。
 この前見たテレビ番組のコメンテーターのセリフをふと思い出す。

『詐欺は受け子でも実刑ですからね。軽い気持ちで引き受けちゃダメなんですよ』
 
 俺は、僅かな下心で、未来の時間を失ったことを悟って項垂れた。

5/13/2024, 9:35:46 PM