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カラスがもう寝静まった頃。旅館から抜け出した俺たちは、錆びて注意書きも読めなくなった鉄階段を降りて浜辺を歩いていた。夜の海はその光を落ち着かせて、緩やかな夜凪の波の音だけを発している。
前を歩いていた彼女は急にしゃがんだかと思えば、貝を手に取り、こちらに見せびらかしてきた。

「なんか貝殻耳に当てると音聞こえるんでしょ?うちの出身県海無くてさ、ずっと試してみたかったんだよなぁ」
「試してみてどうだった?」
「うーん、ここ海だしどっちの音なのかわからないや」

そう言うと、彼女は海に貝殻を投げ捨てた。
いいのかよ?いいのいいの。
そんな適当な会話すら静かな海に吸い込まれていく。
いつか、この日のことを忘れる日が来るのだろう。
でも今だけは、この景色を二人だけで。

9/5/2024, 1:17:57 PM