「……あ、」
ざあざあと重たい雨音が遠くから連れられてくる。
雨の放課後の昇降口は、遅い時間帯ということもあって、人の気配が少なかった。
ぴちゃん、と音がして前髪に降ってきた小さな衝撃。雨粒はそのまま前髪を伝って静かに地面に吸い込まれていく。
雨の世界に一歩踏み入れようとしていた俺は、慌てて
その一歩を戻す。…雨、降ってたんだ。今になるまで全然気づかなかった。
「…傘、持ってきてないや」
嘲笑するようにため息を落として、濡れた前髪に触れてみる。冷たくはなかった。たぶん手が冷たくなりすぎて、温度の感覚がバグっているのだろう。
…ほんと今日うまくいかない。
今日の出来事を思い出して、視界がしおしおと俯いていく。…そういえば今日、先輩に会えてないや。
今度は諦めたようにため息をついて、雨の世界に一歩踏み入れる。あーあ…、ほんと、さいあく。
「ちょ、みことくん、風邪引くよ」
「―――み"ゃっ!?」
後ろからくいっと優しく肩を引かれて、自分でもびっくりするような声が漏れた。
ばっと口を覆うけど、時すでに遅し。そろそろと振り返ると、驚いたように静止している先輩がそこにいた。
「…えっと、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだけど…」
「わ、わわわわわ…!!忘れて、忘れてくださいっ、お願いですから…っ」
顔がかぁーっと熱を持っていくのが自分でも分かって、必死になってわーわー言っていると、先輩がふっと笑った。
「ふ、ははっ、猫みたい。なかなか出ないでしょ、みゃって、ふ、あはは」
―――…あ、はじめて。
はじめてだ。こんなに先輩が笑うの。
本心なのか分からない笑顔じゃなくて、無邪気にくすくす笑う先輩に否応なく心の臓が脈を吐いた。
「って、そんな笑うことですか…っ?」
真っ赤な顔で先輩をぽかぽか叩くと、先輩は笑い声に吐息を混じらせて目元の涙を拭った。
「ごめんごめん。それより、みことくん傘ないの?入ってく?」
「はい忘れちゃって―――…うえ…!?」
“は、入ってく”…!?
思わずばっと反応してしまうと、先輩はまたまたくすくすと笑った。
「みことくんは反応が面白いね」
「っ、だって、相合傘…なりますよ…いいんですか…」
「なりますよ、って。いいよ、そのつもりで誘ったんだから」
君と一緒に 追い風 #162
(投稿したと思ってたのにぃ…、もう一度全部かきかきするのだるいので、空き時間にちょくちょく更新していこうかなと)
1/8/2025, 12:57:36 PM